足場板

小さな会議室でホテルの支配人とソムリエが話し合いをしていた。わたしは二人の様子を見ている。会議室は、ひとつの側面にそっくり壁がなく、剥き出しに外界が覗かれるようになっていた。

わたし達はふと道の向こうに隣接するビル棟の、ちょうどこちらと向かい合せにあたる5階の料理店に目を向けた。店の大きな窓硝子はどれもみな酷く罅割れているか、或いはすっかり抜け落ちて窓枠だけが残っていた。さらに最上階は潰されかかってもはや原型を留めていなかった。

料理店では揃ってダーク・スーツに黒い帽子といった姿の髭をたくわえた紳士が四人、席を立つところだった。退店するのに、彼らは何故か店の出口からではなく壁側にある大きな窓の方へとまわり、硝子のない窓を跨いで外へと飛び出すと、外壁に渡してあった工事用の足場板を器用に降り、路地の向こうへ消えて行った。(5/14/00)


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