丑三つ時に |
東京の郊外に、とある企業が所有する街がある。この街の住人達は殆どみなその企業へ勤めていた。夜勤組が日勤組へとシフト交替をする頃、わたしは家を出る。夜が明けに向かう静かで青い仄明かりのなかで、わたしは向かいの家から悲鳴に似た男の子の泣き声を聞いた。それでも私は仕事場に向かい歩き始める。道ばたで、ひとりの少女が空間の余白に彼女の腕ほどもある大きさのハサミで縦横に切り込みを入れている。そういえば今朝の風景は絵本の一頁のようだった。風はなかったが、水場の水面は幾重もの波紋を描いていた。
仕事場は、二交代制で回転し続け、真夜中でも真昼のような活気がある。オフィスに着いたわたしは、すぐにひとりの女友達を探していた。やっとのことで、うず高く積まれた書類の片隅で前日から働き続ける彼女を見つけたわたしは、彼女に歩み寄ると「丑三つ時が恐い」と云った。(10/23/00)