雲梯 |
植物園のような所を歩いていたのだろう、南洋植物の葉と葉の重なり合いがあちこちに陰影を作っている。 友人が上の階で食事をしようと云い、先を歩いて行く。わたしは彼女に追いつこうとしながら、すぐにその姿を見失ってしまう。 彼女の姿を見つけようと下のホールから吹き抜けの天井を見上げる。しかしそこに見えるのは、テラスの淵に垂れるフリージアの花や蔓植物だけだ。
ところで階上へと移動するのに、ここでは誰しもがホールに張り巡らされた長い雲梯を渡って行かなければならなかった。というのも、下のフロアは水をはったたプールのようになっているからだ。他の人にならって、わたしも雲梯に掴まった。中間点ぐらいまで来たところで、わたしは流れに逆行して来た男性と鉢合わせになった。わたし達はぶら下がったままお互いの顔を見合わせたが、やがてその男性はにっこりと頷いて鉄棒から手を離した。わたしは咄嗟に「ごめんなさい」と云ったが、その親切な反応に心苦しい気持ちがした。改めてわたしはいま来た道を振り返ってみた。沢山の人が水上の雲梯棒を渡って後ろから来るのが見える。(3/30/01)