東京第125区 |
見知らぬ駅に降り立った。灯りがまばらに点り始めた小路を歩いて行く。ぽつんと佇む小料理屋の前で従業員が一息入れているのが見える。藍色の帯のいらない独特な型の着物を着ている。店の前を通り過ぎようとすると、硝子窓の向こうに無線室のような小部屋が見える。中で店員が何処かにメッセージを送っているようだった。
路の脇を流れる小川に沿って行くと、ある知人のアパートに辿り着いた。バンガロー風の、南方の何処かまで行ったらばお目にかかれそうな部屋で手作りウォールハンギングが揺れている。
帰り道が曖昧になる。ただ当てずっぽうに歩いてみると、やはりまるで見憶えのない方へと入り込んで行くようだった。ふと見下ろした自分の足元が泥濘に嵌りかけている。足を浮かしてみると靴が酷く汚れていたので、泥靴のまま帰りの電車に乗り込むのを想像して悲しい気分になった。それからわたしは急にその泥の道から離れると、きびすを返し別の方向へと歩き出す。やがて見えてきた高台を上りつめたところに、やっと見憶えのある大きな建物が見えてきた。東京第125区役所と書かれている。(9/21/01)