奇妙な装置 |
明け方、なだらかに続く丘陵地帯を歩いていた。民家の庭先などに沢山の猫がいる。目前に橋が見えてくる。わたしはその橋を渡った高台にある白いマンションを目指していた。
マンションに戻ると、しばらくしてあたりに地響きがするほどの爆音が轟いた。その音のことが妙に気になるので、辺りが白々として来るのを見はからってマンションのなかを歩いてみることにした。回廊灯が青白く明滅している。緩やかに楕円を描いた螺旋階段を上って行くと、すぐに一組の若い夫婦に遇った。なんとなく目が合ったので「今朝、何処からか変な音がしてきませんでしたか?」と話し掛けると、夫婦はわたしを更に階上にあるふたりの部屋へと手招いた。部屋の前に来ると、夫のほうが徐に入口わきの壁に嵌め込まれた収納庫の南京錠を開けはじめた。収納庫の扉は、白く塗り込められている以外は、どこかしら火葬炉に似ていた。中から出てきたのは、大きなタンク型の不思議な装置だった。「これが大きな音を発するんですよ」と云う。
結局、それが何の装置であるかは不明のままだったが、明け方の轟音の謎が解けて階下へ戻ろうとすると、廊下の隅に少女がうずくまっているのを見つける。家族なのだろうか、ステンドグラスの嵌った開かない飾り窓の片隅に、一人の男が少女を追い込んで、持ち上げた椅子を今にも少女の頭にふり落とそうとしているではないか。咄嗟に、変な勇気が湧き起こって、わたしの口からはその男に向かってすごい言葉が吐き出された。(11/20/02)