時計仕掛けの玩具 |
フードにゴーグルのライト兄弟のような風貌をした男達が夕方の空に曲線を描いた。上空の彼らは自転車のような羽のないグライダーに乗っていた。ひと気のない一本道で、友人と私は男達が空を飛ぶ姿を眺めていた。
ショッピングモールで友達が真っ先に手に取ったのは、ぜんまいや螺子ばかりの歪で奇妙な玩具だった。実際それはむき出しの部品の塊で、なんでも成長して大きくなるという。自分もひとつ手にしてみたが、暫らくして思い直した。
そう遠くはないどこかから誰かを呼ぶ声が聞えてくる。声のするほうへ耳を澄ますと、わたしは堆く積まれた商品の中から一機のセルフォンを見つけ出した。話しかけてみると、すぐに外国訛りの日本語で「一体いつになったら迎えに来てくれるのか」という言葉が返ってきた。
手にした玩具を返しに売り場へ戻ると、そこはさっきまでの店の様子と一変している。溢れるほどあった土産物の類いは影もなく、ショーケースに高価そうな宝飾品が充分すぎる程の間隔をおいてよそよそしく並んでいた。無表情の店員はみな夜会服を着ている。きっかけをなくしてしまい、売り場を通り過ぎるとわたしはそのまま出口へ続く階段を降りた。その階段は途中から赤い絨毯張りになった。真紅の絨毯はそのまま広いフロアへと続き、いつしか映画館のロビーに出ていた。(12/09/02)