落下するリムジン

客室の窓から、市街地を眼下に見下ろした。いつか、この長い歴史あるホテルに泊まり、これと同じ景色を見たことがあったことを私は思い出していた。私はかなりの荷物を持ち込み、そして猫を一匹連れていた。

突然、アメリカ国旗のような赤と白と青のペイントを車体に施した一台のリムジンが部屋の中に突進してくる。車はまっすぐ入ってくると、どうやら反対側にある窓を突破しようとしているように見えた。すぐに、これは爆発する、という予感が脳裏をよぎり、私は素早く猫を小脇に抱えると部屋の蝋燭を吹き消そうとした。蝋燭の火は吹き消そうとするたびに消え入りそうになりながら、決して完全に消えることがなかった。同時に車はもはや車体の半分を窓から突き出していたため、私は急いでドアの影で身を伏せた。

何も起こっていないように見えたのは、それから暫くしても部屋がそのままの状態だったからだ。けれども、リムジンは落下したに違いなく、まもなく記者達が束になって部屋へおしよせてきた。金髪の巻き毛をしてトレンチコートを身に纏った女性記者が、きびきびとした話し方で私に沢山の質問を浴びせるが、様々なことが頭の中を錯綜して上手く応えることができない。
(12/02/03)


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