閉館時刻 |
閉館している国営公園のゲートを潜りぬけて、雨に濡れた路面を歩き出した。夜の公園には人知れずたくさんの小動物が住んでいる。動物達は樹々の茂みの隙間から時折顔をあらわして、彼らの庭を彷徨う珍客をじっと見つめていた。私は名前すら分からないそれらの動物達と目が合うたびに言葉のない挨拶のようなものを交わした。
歩きながら、いつ頃からか姿を消してしまった猫のことを考えていた。この路の先に、この広い敷地のどこかにその猫がいる。今夜のようなタイミングで雨宿りに飽きた猫が彼方此方から出てくることだろう。私はもう一度あの耳の先の千切れた顔を思い浮かべた。
しっとりと湿ったアスファルトの真ん中に円い水たまりがある。なかに水銀灯の光が浮かんでいる。路の脇には大きなリスが背筋を伸ばして佇んでいる。
どんどん歩いていくと、対面の裏門に出た。守衛のような人がこちらに向かって来たので、叱られるのだろうと思ったら、徐にポケットから金色の釦のようなものを取り出して手の上にのせてくれた。それは一円玉ぐらいの大きさだったが、硬貨5枚を重ねたぐらいの厚みがあり、ずっしりと重かった。私はなんだか分からないが、綺麗だなとだけ思った。
持ち帰って仕事場でそれを取り出して見せると、誰かが、それは遠くの国の珍しい記念硬貨のようなもので売却したら結構なお値打ちです、と云った。 (5/27/04)