ひかる靴

休憩をしようとオフィスの中庭へ抜ける扉を開けると、中庭ではなくどこかの家の縁側に出た。すぐ足元に角の削れた踏み石があり、その辺一体が柔らかな橙色の日溜りに温められている。

踏み石の上に、靴がのっている。それはたしか、この場を離れた仲間の一人のものだった。

スタッフの一人が扉を開けてこちらへやって来ると、何か話をし始めた。こちら側は他人の家の庭になっているというのに彼には特別驚いた様子もない。置き忘れの靴のことをたずねてみようとそちらの方へ眼をやると、さっきまであった靴が消えてなくなっている。彼は紙コップのドリンクを飲み干すと、再びオフィスへ戻って行ってしまった。

それから私はもう一度踏み石の上を見た。するとまたそこに靴がある。一段と輝きを放って。それは何か私に想像させようとしているかのようだ。(12/05/04)


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