塔 |
大人が三、四人立てる程度の塔の上に立っていた。展望台は柵も手摺もない浅いスープ皿のような形をしている。あたりには目ぼしい建造物がなかったので、塔は風で縦横に揺れていた。
床いちめんに色見本のような正方形が、散らばった折り紙のように広がっている。それらは時折一枚また一枚と剥がれては何処かへ飛んで行った。デコボコの床は、所々が浮いたり沈んだり生き物のように絶えず動いていた。足を置いた場所によっては沈み込んで深みに嵌ってしまうので、素早く足を別の場所に移動させなければならない。塔は相変わらず強風に煽られる甲板のごとく揺れ続けていた。私は地上に降りたいと思った。
どのようにしたか分からないが、いつの間にか落下したのだろう私の両足は微動だにしない大地にしっかりと着いていた。地上を歩きはじめて程なくすると、風景が室内の様子へと変わった。赤絨毯の敷き詰められた広いフロアの向こうから黒服のホテル支配人が二人並んで歩いてくるのが見える。そこではじめて、私は自分が裸であることに気がついた。けれどもまわりに隠れるような場所は見当たらない。わたしは酷く恥ずかしくなり心の中で悲鳴をあげた。すると次の瞬間、如何なる幸運か私の身体はぱっと衣服で覆われた。(12/07/04)