ある晴れた日に

タイムズ・スクエアのチケッツで22時上演のチケットを買った。帰り道、背後にひと気を感じてふと振り返ると、随分前に秘書を務めたことのある一人の老紳士が立っていた。その人は私に向かってこう言った。「むしろ、私には23時の方が都合が良い」 そういえば、かつてもこのようにして彼個人が利用する料理店や劇場の券を手配したものだ。そしてたった今買ったこのチケットも、どうやら彼のために取ったもののようだった。要求に副うべく、私は今来た道を再び売り場に向かって歩き出す。風が吹いて翻った私の服は見慣れぬ真っ黒のドレスだった。

私は公園のなかを通り抜ける。そこに御影石でできた巨大な水の彫刻がある。球状の頂点から水が湧き出し、石の表面にヴェールをつくっている。彫刻の前には蛇口が横一列に沢山連なった水飲み場があり、人々が水を飲んだり顔を洗ったりしていた。傍らに、小学生ぐらいの女の子が立っている。水の彫刻から湧き出してはまたどこかに吸収されていく一連の様子にじっと見入っている。

いちめんが総ガラス張りのレストランで友達に会った。窓の向こうには、10代の頃の渋谷の光景が広がっている。けれども、もしかするとそれはガラスに映し出された映像なかもしれない。それは、この友人とも最も頻繁に会っていたころの景観だ。テーブルに、お薦めといわれる風変わりな料理が並ぶ。一口食べたところで道草をくっている自分に気づき、はっとする。友人が、容量が二割ぐらい減って見えるシェリー酒をおみやげに持たせてくれた。


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